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​歯科技工士のための感染知識と対策例2
​~医療現場で厄介なバイオフィルム~

​1)バイオフィルム形成

  私たちの体に常在している細菌や真菌は、浮遊した状態で存在することはなく、何かに付着したバイオイルフィルム(biofilm)という集団になって生存している。バイオフィルムは、生物(bio)がフィルム(film)状になって棲みつくものである。デンタルプラークやデンチャープラークは、複数の細菌や真菌がお互いにコミュニケーションをとりながら棲みつくバイオフィルムである。
 細菌は棲みついて増殖できる環境でシグナルを出して一定の数に達する。そして、自分たちの住む環境が7悪くなるとシグナルを出して増殖をストップさせている。細菌同士がそのような情報伝達に使うシグナルは、QS(quorum sensing)シグナルである。そのシグナルを使って他菌種ともコミュニケーションをとることができる。QSシグナルは、細菌性フェロモンあるいは細菌性ホルモンともいわれる。
 QSシグナルは菌数調整や他菌種とのコミュニケーションをだけでなく、毒素の産生能や抗菌薬に対する抵抗性などを高める。すなわち病原性を自ら調整することに使われる。
 バイオフィルム形成細菌は、菌体の周囲にねばねばした糊状の菌体外多糖類せあるグリコカリックスを作ってお互いに結びつきぬるぬるしたバイオフィルム集団となる。グリコカリックスは、菌体外高分子化合物(ESP)ともいわれる。棲みつくバイオフィルム集団は、多細胞生物のように振る舞い、白血球の食作用や消毒薬に抵抗性になる。
ラテン語の毒に語源がある。コロナウイルス、インフルエンザ、重症急性呼吸器症候群(SARS)、エイズなど世界的大流行(パンデミ―)を起こして脅威となっている。医療を介して歯科技工士に感染するリスクの高いB型肝炎ウイルスおよびC型肝炎ウイルスなどの感染予防には、それらのウイルスの特徴について知ることが肝心である。

​2)頑固に棲みつき病院内に蔓延するバイオフィルム

治療中の歯科医2

  バイオフィルム集団になるのは、ブドウ球菌、セラチア菌、レジオネラ菌、緑膿菌、大腸菌、カンジダ・アルビカンス等である。これらは、常在しており、免疫力の低下したグループに感染症を起こし、医療器具にバイオフィルムを形成して病院内で感染症を起こす。
 バイオフィルムは、チャンネルを介して栄養源を取り入れ、自分たちの環境を破壊するような老廃物を排出することによって、頑固にへばりついた生態系を築いてしまう。また、私たちには生まれつき持っている自然免疫力と生後成立する特異的な獲得免疫が働いており、外部から侵入する非自己を排除する防御機能が備わっている。ところが、バイオフィルムに対しては、これらの免疫学的応答は作用しない。
 抗生物質など抗菌薬や消毒剤は、浮遊菌に対しては有効でるものの、バイオフィルムに容易に浸透することができないため有効に作用しない。
​ したがって、バイオフィルム病巣の排除は外科的な処置が優先され、医療器具や生体に形成されるバイオフィルム除去には機械的に取り除くことが不可欠になる。



                               


 

デンタルプラーク画像.jpg
出展:歯科技工士のための感染知識と対策例                                発行元:公益社団法人 日本歯科技工士会
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