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​歯科技工士のための感染知識と対策例1
​~ウイルスについて~

​1)ウイルスの構造と生き方

  ウイルス(virus)は、ラテン語の毒に語源がある。コロナウイルス、インフルエンザ、重症急性呼吸器症候群(SARS)、エイズなど世界的大流行(パンデミ―)を起こして脅威となっている。医療を介して歯科技工士に感染するリスクの高いB型肝炎ウイルスおよびC型肝炎ウイルスなどの感染予防には、それらのウイルスの特徴について知ることが肝心である。
 ウイルスは、1mmの1000分の1であるμm(マイクロメーター)のさらに1000分の1であるンnm(ナノメーター)の大きさで示す。大きい天然痘ウイルスは300nmであり、小さいコロナウイルスはだいたい0.1μmで、冬場に牡蠣などによる食中毒の原因になるノロウイルスもその種に属する。ウイルスの形態はまちまちであるが球形のものが多い。
​ ウイルスの基本構造は、内部の核酸であるDNAあるいはRNAと周囲のタンパク質の殻、すなわちカプシドであるおとから、ウイルスは遺伝子の缶詰と言われる。ウイルスは遺伝子核酸としてDNAかRNAの一方しか持たないため、DNAウイルスとRNAウイルスに分けることができる。
 糖タンパク質と脂質からなるエンベロープで囲まれているウイルスは、消毒薬に感受性がある。一方、エンベロープのないウイルスやエンベロープが薄いB型肝炎ウイルスは、消毒薬に耐性を示すだけでなく、乾燥した環境でも死滅しにくい。
 感染してから発病するまでに5年から10年かかることから遅発性ウイルス感染症とされていたクロイッフェルト・ヤコブ病(CJD)は、特異なタンパク質が認められるプリオン病である。プリオン病原体は、核酸のDNAもRNAもない感染性因子である。熱や消毒薬に対して抵抗性である。

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​2)ウイルスの感染様式

  ウイルスは、細胞に寄生してのみ生きられる偏性寄生性である。しかし、ウイルスはどの細胞にも寄生できるわけではなく、感染して寄生できる細胞は限定されている。感染を規定しているのは、ウイルス表面の構造とそのウイルスを受け入れる細胞表面の構造である。すなわちウイルスとその寄生する細胞には、「鍵と鍵穴」の関係がある。すなわち、ウイルスは、標的とする細胞にしか入り込めない。
 まずウイルスは、標的とする細胞への吸着後、細胞内に侵入する。細胞内に入り込むと殻を脱いで(脱殻)入り込んだ細胞のエネルギー合成系、タンパク質合成系を利用して複製する。入り込んだ細胞内で複製されたウイルス粒子が放出され、隣接する標的細胞に入り込んでいく。
 ウイルスは、感染して病原性を発揮して破壊するものと、がん化させる腫瘍ウイルスに大別することもできる。日本の100万人以上いる保菌者のうち、毎年約600~700人に成人性T細胞白血病を起こすHTLV-1は、腫瘍ウイルスである。HTLV-1の感染経路は授乳、性交、輸血があげられる。


 

出展:歯科技工士のための感染知識と対策例                                発行元:公益社団法人 日本歯科技工士会
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