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株式会社医科歯科技研 藤原芳夫社長の論文を読んで
第1回

歯科技工業界ではデジタル化およびデジタル機器の普及により、補綴物作成にCAD/CAMシステム(Computer Aided Design/Computer Aided Manufacturing System)を利用される様になり、その重要性が一段と大きくなって来ました。そのCAD/CAMシステムを用いて補綴物を製作する上で、最も重要であるスキャニングと設計において、今回、兵庫県神戸市西区の歯科技工所、株式会社医科歯科技研 藤原芳生社長が発表された論文を拝読し、特に注目した論文があったので紹介したいと思います。

一つは、歯科技工士がCAD/CAMシステムを用いて補綴物を製作する際、最も重要な模型のスキャニングにおいて、スキャニングを行った際に避ける事の出来ない原理的な欠陥「エッジロス」現象が起こり、ショルダーマージン部のデータが正確に再現されていないマージンの状態でデータ化されているとの論文内容で『歯科用スキャナの原理的欠陥「エッジロス」とその解決策』です。

 

もう一つは、一般的に歯科技工所で使用するスキャナと言えば、ラボ用スキャナ(デスクトップ型スキャナ)と言われる据え置き型の模型を読み取る機種のイメージがあり、読み取った模型のSTLデータ(Standard Triangulated Language Data)をCADソフトで処理し、設計する流れだと思っていましたが、模型の歯肉縁下のマージン形状を読み取るには、今迄行われてきた可撤式模型を製作し、そのマージン部をトリミングよって再現した上で、模型をスキャンする必要があると考えていましたが、藤原社長のラボでは歯科医師がチェアサイドで使用するIOS(Intra Oral Scanner : 口腔内スキャナ)を使用し、印象模型全体のほぼ2/3を可撤式模型の製作をする事なく、またトリミングもせずにスキャンして技工作業を進めるとの特集内容の『歯科技工所にIOSが必要な理由(ワケ)』でした。

 

スキャナを用いて模型をスキャンすると、STLデータのポイントクラウドが収集され、ポリゴンメッシュ処理をする際に、スキャナでは正確に再現されないノイズに当たるマージンの稜線部分がデフォルト(欠落)マージンの形状、および精度として反映される状態が起こっているとの内容でした。また、スキャナ自体も臨床応用に耐える精度に達しているものの、スキャナの種類によって、精度や再現性に差が出ているとの内容です。

今回、株式会社医科歯科技研の藤原芳生社長に弊社のホームページで是非とも、この「エッジロス」現象や「歯科技工所にIOSが必要な理由」について掲載し、デジタルデンティストリを目指す歯科技工士の皆様や歯科関係者の方々にも広く知って頂きたいとの想いをお伝えしたところ、快くご承諾頂き、掲載する事が出来ました。そこで先ず「エッジロス」現象について、藤原芳生社長の論文から引用し、もう少し詳しく説明したいと思います。

 

藤原社長は、模型をスキャンした後のSTLデータの画像を見て、トリミングをした支台歯模型のマージン部はバーによる形成の痕跡がある支台歯をスキャンしたにも関わらず、表面は滑らかであり、角があるはずのショルダーマージンの角が丸くなっている事に違和感を覚えらました。デジタルデンティストリが叫ばれて久しいですが、その入り口であるスキャナにはモデルスキャナであれ、口腔内スキャナであれ、避けることのできない原理的欠陥「エッジロス」があることを研究テーマとして検証を始められました。(図1a,b)

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​a
​b
​図1a、b
今回のテーマであるエッジロス。エッジがあるはずのショルダーマージンが丸くなる現象。

世に存在するスキャナは、全てエッジを正確に表現することは出来ない事実をCAD/CAMシステムサプライヤーは把握しているが、今のところ積極的に解決しようとする動きは見えず、放置されているのが現状のようです。

 

また技工作業の現場では、歯科技工士がマイクロスコープ下、手作業で調整し適合を得ている現実を歯科医師は把握しておらず、あまり関心を引かない点に疑問を持たれていた中、2017年にこの問題について山本真氏による完璧な解決法「エッジ延長法」が示されましたが、その後、重要な問題にも関わらず論考が深まらなかったことを嘆かれました。また現在のモデルロスによる補綴装置の製作では、山本氏の提示した解決法では対応できない事から、データの処理による解決法、「CADソフトによる対応」と「スキャンデータの修正」の2方法、そして将来の展望として「AI(人工知能)による対応」が触れられています。

「エッジロス」現象の原因は、スキャナによる計測データそのものは「点」の集合(ポイントクラウド)で(図2、b)、この点を結んで三角形(トリゴン)を作り、その集合体であるポリゴンで面を構成して形状を表現しています。この時、スキャナの計測点はマージンの近傍に存在はしていますが、マージンそのものの計測はしていないとの事です。このデータがSTLデータ、つまりポリゴンデータで、そのトリゴンは曲面ではなく、平面になっています。このトリゴンを作る際に、本来スキャンエリアに数億個あるポイントクラウドから主な数十万個が選択され、STLデータを構成しているとの事です。つまりこの時点で、計測値の微細さは1,000分の1に削減されていることになります。また「エッジロス」の原因にはこれ以外にも、光の透過やノイズデータもあるとの事ですが、このトリゴンサイズの一辺が平均およそ50㎛であることも大きく影響している様で、50㎛の直線でデリケートな支台歯のマージンを表現出来ると思えない事から結果、エッジは丸く表現され、「エッジロス」の現象が起こるとの内容です。(図2、c)

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​図2、b
ポイントクラウドの実態(ショルダー部)。スキャナで計測したデータはこのような「点」の集合である。この状態でも光の透過や反射によるノイズなどにより、既にエッジロス現象が起きている。
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​図2、c
計測された点を結んで三角形を作り(トリンゴ)、その集合体のポリゴンで面を構成する。図2、bのポイントクラウドの時よりもエッジが丸くなり、エッジロスが増加しているのが確認できる。

更にポイントクラウドからSTLデータを構成した当初は、ノイズデータやトリゴンの粗さから凹凸状態ですが、それをスムージングという処理により、表面を滑らかに加工して表します。この処理がどの様に行われているかについての詳細は把握されていないと書かれてありましたが、エッジ部はポイントクラウドの中で、ノイズとして認識されている可能性が高く、マージンのエッジ部付近が省かれる傾向にあるそうです。

 

ポイントクラウドの密度が高くても、これらを原因としてエッジロスは大きくなり、スキャンデータは対象物のリニアトラッキング(直線的な移行)をしておらず、正確なトレースが出来ていない状態、これが「エッジロス」現象の主な原因と書かれてありました。次回はスキャナの種類と再現性について書かれた内容を述べたいと思います。

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