株式会社医科歯科技研 藤原芳夫社長の論文を読んで
最終回
今回、株式会社医科歯科技研の藤原社長のご厚意により、QDT論文:歯科用スキャナの原理的欠陥「エッジロス」とその解決策 QDT 2020年10月号、および歯科技工特集:歯科技工所にIOSが必要な理由(ワケ) 歯科技工2022年9月号の原稿から、デジタル技工の最も重要と思われる歯科修復物の精度に影響する問題について紹介をさせて頂きました。
その特集の締めくくりに、藤原社長が「歯科技工所の近未来の姿」と題して述べられた内容がありましたので、記載したいと思います。
一般にアナログによる口腔内の印象採得は非常に煩雑で、難しい作業だと藤原社長は書かれています。
決められた手順を守らなければ重大な変形を引き起こす。それは技術的に難しいのでは無く、作業手順の重要性を認識する事が難しいという意味である。アルジネート印象材であれ、シリコーン印象材であれ、丁寧に練和し、一定時間口腔内で保持しなければならない。どちらも化学反応で固化するもので、化学反応は温度の影響を受ける。つまり口腔内粘膜に触れている処は早く固まるが、その内部はまだ固まっていない事が多いにも関わらず、表面に触れて固まっていれば口腔内から外してしまう事が多い。その場合、印象材内部では断裂が起き、歯が圧縮された様な変形が起きる。 この変形が大きければ気付けるが、変形が微妙であれば、余程の観察力が無い限り見抜けない。しかし印象の保持時間をタイマーで確認している歯科医院は何割位あるだろうか。更に回転トレーや網トレーを使用すると、トレー自体に、より変形を引き起こす要因がある。
IOSでも機種によってはマッチング不良により、微妙な変形を起こす事があるが、総じてアナログよりは安定している。これらを踏まえて、今後の歯科医院には、各チェアにIOSが設置され、全ての印象がデジタル化される時代が来る事を藤原社長は期待されています。
補綴装置を製作する上で、IOSの利点を述べて来ましたが、それ以外に歯科医院と歯科技工所が同じIOSを所有するメリットがあります。それは同じメーカーのIOSとラボスキャナでも、デザイン画面の違いがあり、歯科医院とのコミュニケーションが取り辛いのですが、同じIOSを所有すれば、遠隔で歯科技工所と歯科医院が同じ画面を見ながら患者同席の元、リアルタイムのシミュレーションが可能となります。(注4)
『MEDIT i700』ではフルアーチスキャンの絶対精度は
30μmだと公表されていますが、これが真実なら最早ラボ
スキャナは不要となるでしょう。IOSの精度的進歩は速く、
歯科技工所からラボスキャナの姿が見られなくなる日は近く、
その頃には鋳造機も姿を消していると思われます。
IOSはデジタルトランスフォーメーション(DX)の入り口
であり、かつ中心的役割を果たすものです。今やIOSは単なる印象採得器具では無く、口腔内情報取得器具であると認識すべき時代となっています。IOSによって得られたデータをどの様にDXし、付加価値を生み出し、生産性を上げていくかが、今後の課題になると推測します。それは手作業の延長とする補綴装置を作る「ものづくり」ではなく、診療の補助となる情報を作る「ことづくり」と言う、新しい歯科技工分野を創造する事にもなるでしょう。全ての歯科技工士が今からIOSに慣れておく事をお勧めする次第です。
デジタルデンティストリは、デジタル機器を駆使して精度の高い補綴物を製作する事は勿論ですが、最終的には、「様々な知識と経験を持った技工士の存在が不可欠であり、これまでの材料やアナログ機器を駆使する歯科技工士から、便利なデジタル機器や関連材料を使いこなし、高精度で高品質の補綴物の製作に結び付ける歯科技工士の世界へと進化する事、そしてそれらの価値を認識し、それに対するフィーが発生する事が常識となる事が重要だとも書かれてあり、私自身もその様に感じ、そして感動した次第です。
引用文献:藤原芳生/松尾洋祐/泰康次郎 株式会社 医科歯科技研
「歯科用スキャナの原理的欠陥「エッジロス」とその解決策」
QDT 2020;45 (10):1322~1339
藤原芳生/松尾洋祐/衣笠智美 森田拓哉 花口幸恵 株式会社 医科歯科技研
「特集 歯科技工所にIOSが必要な理由(ワケ)」
歯科技工 2022;50(9):836~856
OSを使用してスキャンする場合、機種によって被写界深度や被写界角度が様々である事も報告されています。図21は同じ模型をA社のIOS(A、C)と『PrimeScan』(B、D)で計測したSTL画像です。A、Bどちらも奥の方まで計測出来ている様に見えますが、A、Cの方は明らかに未計測部が自動補正されており、双方とも角度を変えて観察すると、ポストの長さが違う事が解ります。被写界深度はA社のIOSの方が深いのですが、被写界角度が大きい為、奥の方が計測出来なかったと思われます。それに比べ、Dは最深部まで計測出来ていると思われ、EはC、とDを半透明にして重ねた画像ですが、CはDの半分程度しか計測出来ていない事が解ります。
出展元:歯科技工 September 2022 vol.50 no.9
特集 歯科技工にIOSが必要な理由(ワケ) page853〜page856より