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金属3Dプリンターの現状について

 先月の樹脂3Dプリンターに続いて、今月は金属3Dプリンターについてご紹介させていただきます。

 近年アメリカやヨーロッパ、中国などでは、技術の研究開発スピードが目覚ましく、実用化の機運が高まってきている金属3Dプリンター。その名の通り、金属材料が使える3Dプリンター(積層造形)です。既に樹脂3Dプリンターの導入により経験のある技工士の方は、金属3Dプリンターに関する情報収集を始められていることと思います!

まだ樹脂3Dプリンターの経験のない皆様方に向けて、簡単にご紹介いたしますので是非ご参考ください!

その1 金属粉末に関する積層造形技術の歴史

 金属の3Dプリンティング技術は、近年急速に進化してきました。以下に、金属3Dプリンターの歴史の主要なマイルストーンをまとめてみます。

1980年代初頭 - 初期の試み

金属3Dプリンティングの最初の試みは、1980年代初頭にさかのぼります。この時期、主に研究室での実験が行われ、特にレーザーを使用して金属の粉末を溶融する方法が探索されました。


1990年代 - ダイレクトメタルレーザーサンタリング(DMLS)

1990年代には、EOS(Electro Optical Systems)などの企業が、ダイレクトメタルレーザーサンタリング(DMLS)と呼ばれる技術を開発しました。これは、レーザーを使用して金属の粉末を層状に溶融し、3Dオブジェクトを構築する方法です。


2000年代 - 金属粉末焼結法と電子ビームメルティング

2000年代に入ると、新しい金属3Dプリンティング技術が登場しました。金属粉末焼結法(Metal Powder Sintering)や電子ビームメルティング(Electron Beam Melting)などが開発され、これらの技術により、従来よりも複雑な構造の金属部品を製造することが可能となりました。


2010年代 - 金属3Dプリンターの普及

2010年代には、金属3Dプリンターが一般の企業や研究機関で広く利用されるようになりました。多くの企業が独自の金属3Dプリンティング技術を開発し、医療、航空宇宙、自動車、エネルギーなどの産業で活用されました。
 

2010年代後半 - 金属3Dプリンティングの進展

2010年代後半には、より高度で効率的な金属3Dプリンティング技術が登場しました。精度向上、材料の多様性、製造速度の向上などが進み、金属3Dプリンティングはますます主流となりました。

 

2020年代 - 金属3Dプリンターの多様化

2020年代に入ると、金属3Dプリンターの多様化が進んでいます。新しい金属合金や設計ソフトウェアの進化により、製造可能な対象物が増加し、産業用途だけでなく、個人や小規模企業でも金属3Dプリンティングが利用されるようになっています。

 金属3Dプリンティングの進化は、産業界において新たな可能性を開いており、将来的にはより効率的で持続可能な製造プロセスに寄与することが期待されています。

その2 金属3Dプリンターの造形方式は?

 金属3Dプリンターは、異なる方式で動作し、異なる技術を使用しています。以下に、一般的な金属3Dプリンターの方式についていくつか紹介します。

 

パウダーベット​(PBF)方式

パウダーベット方式は、金属の粉末を薄い層に敷き詰め、レーザーや電子ビームなどのエネルギー源を使用して特定の領域を溶融・固化させ、次の層を重ねていく方式です。代表的な技術にはダイレクトメタルレーザーサンタリング(DMLS)、セレクティブレーザーメルティング(SLM)、および電子ビームメルティング(EBM)は、すべてこのパウダーベット方式の一種と見なされます。

指向性エネルギー堆積法

指向性エネルギー堆積法は、エネルギービーム(レーザー、電子ビーム)を使用して、金属ワイヤーまたは粉末を溶融・堆積していく方式です。レーザー溶接や電子ビーム溶接が含まれます。

FDM方式(熱溶解積層法)

FDM方式は、熱で融解されたフィラメントを積層して3Dオブジェクトを形成する方式です。一般的には、プラスチック製品を作るのに使われますが、金属のFDM方式も存在します。

バインダージェット方式

バインダージェット方式では、金属粉末にバインダーを混ぜ、専用のバインダーヘッドで液状バインダーを噴射して積層していきます。積層後に緑体と呼ばれる前段階の部品ができ、これを焼結して完成させます。

レーザー溶解粉末法(LMM)
レーザー溶解粉末法(LMM)は、レーザーを使用して金属粉末を層状に溶融し、3Dオブジェクトを形成する技術です。これは、ダイレクトメタルレーザーサンタリング(DMLS)やセレクティブレーザーメルティング(SLM)とも呼ばれます。LMM方式は高い精度で複雑な形状の製品を作成するのに適しています。

 

 これらの方式は、それぞれ異なる応用や特性を持っており、用途によって最適な技術が選択されます。金属3Dプリンティング技術は継続的に進化しており、新しい方式や改良が次第に導入されています。

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その3 歯科医療に適した造形方式とそれぞれの特徴等について

 歯科医療において最適な金属3Dプリンティング方式は、使用される材料や要件によって異なります。歯科医療で主に使用される金属3Dプリンティング方式には、以下のようなものがあります。

ダイレクトメタルレーザーサンタリング(DMLS)

 

歯科インプラントや歯の補綴部材を製造する際に利用されます。DMLSは高い精度と詳細な構造の製造に向いており、焼結、溶融していない粉末は再利用が可能です。DMLSは、SLMと非常に似ていることから、混同されやすく、SLMとの違いとしては、SLMが金属粉末を溶かして形を作るのに対し、DMLSは金属粉末を焼結して形を作っていきます。このため、SLMだと単一の溶融温度を持つ純金属造形しかできませんが、DMLSの場合、合金や異なる溶融温度を持つ複数の金属元素をの混合物をプリントすることが可能です。レーザーを使用して金属粉末を層状に溶融し、3Dオブジェクトを形成する技術です。

  特 徴

    ①高出力レーザーを使用して金属粉末を溶融・層状に積み重ねる。

    ②精密な制御で複雑な形状を作成可能。
    ③多様な金属合金が使用可能。


  メリット

    ①高い精度と表面仕上げの品質。
    ②複雑な構造や微細なディテールを作成できる。
  

  デメリット

    ①ビルド時間が長いことがある。
    ②機器のランニングコストが高い。

電子ビームメルティング(EBM)

 

EBMも歯科医療分野で使用されています。特に、耐久性が求められる部品や高温での使用に適した金属部品を製造する際に利用されます。EBMは高いビルドスピードを持ち、精度と強度が求められる歯科用途に適しています。​EBMは、SLMと同じくビームによる溶解で造形いていく方式で、SLMではファイバーレーザービームなどが使用されますが、EBMでは電磁コイルで制御された高出力電子ビームを導電性の金属材料に当て、焼結することで造形がされます。また、造形はビームの機能確保のために真空下で行う必要があります。

  特 徴

    ①高エネルギー電子ビームを使用して金属粉末を溶融・凝固させる。
    ②高いビルドスピー
ドが可能。
    ③高温でのプロセスが可能。

  

  メリット

    ①高いビルドスピードで大規模な部品が製造可能。
    ②
融点の高いチタン合金やコバルト・ニッケル合金など高温材料が利用できる


  デメリット

    ①精度が低く、微細な特徴の制御が難しいことがある。
    ②利
用可能な材料が限られている。

     

SLM(Selective Laser Melting)

 

SLMも歯科医療において金属部品を製造するために利用されています。特に、クラウンやブリッジ、部分入れ歯など、高い精度が求められる歯科製品の製造に使用されます。原理は装置の出現依以来レーザー光の照射位置決めをガルノバミラーで制御する方式が多く、造形中に金属粉末が酸化し造形品質の低下を防ぐために、Ar(アルゴン)等の不活性ガスを使用して酸素濃度下げる必要があります。

  特 徴

    ①レーザーを使用して金属粉末を溶融・凝固させ、層を積み重ねる。
    ②高いエネルギー密度で素材を処理する。
    ③微細な粒子や精密な制御が可能。

 

  メリット

    ①​複雑な形状の金属も高い精度と強度を持つ部品が得られる。
    ②さまざまな金属材料が使用可能。

 

  デメリット

    ①部品が大きい場合、ビルド時間がかかることがある。
    ②機器の初期投資が高い。

 

 歯科医療における金属3Dプリンティングの主な利点は、患者ごとのカスタマイズが可能であり、精密なフィットが得られることです。また、金属部品の強度や生体適合性も重要な要素です。選択する方式は、具体的な製品や治療のニーズ、使用される材料に依存します。歯科医療の分野では、患者に合った最適な治療を提供するために金属3Dプリンティングが有望な技術とされています。​

その4 金属3Dプリンターの将来像

 金属3Dプリンティング技術は歯科領域で非常に大きな将来性を持っています。以下に、金属3Dプリンティングが歯科にもたらす可能性や展望についての考察をいくつか挙げてみましょう。

 カスタマイズされた製品の製造 

金属3Dプリンティングを使用することで、患者ごとに合わせたカスタマイズされた歯科製品の製造が可能になります。例えば、歯科インプラントやクラウン、ブリッジなどが患者の口腔形状に最適に合わせて製造されます。

 

 高い精度とフィット 

金属3Dプリンティングは非常に高い精度で部品を製造できるため、従来の製造方法よりも優れたフィットと対応が期待されます。これにより、歯科製品の品質が向上し、患者への適切な治療が可能になります。

 

 新しい材料の導入 

金属3Dプリンティング技術の進歩により、新しい生体適合性の高い金属材料が歯科用途に導入されるでしょう。これにより、歯科インプラントや歯の補綴材料の耐久性や生体適合性が向上します。

 

 スピーディな製造プロセス 

金属3Dプリンティングは比較的迅速な製造プロセスを提供できます。患者は少ない訪問回数で、より短い時間で治療を受けることができる可能性があります。

 

 補綴の複雑な形状への対応 

複雑な形状やデザインの補綴が可能になります。金属3Dプリンティングは複雑な内部構造や微細なディテールを作り出すことができ、これが歯科製品の進化に寄与します。

 

 修復と再構築 

患者の歯を模倣した金属部品を製造することで、歯の修復や再構築が可能になります。これにより、天然の歯と同様の外観や機能を実現することが期待されます。

 大地震等の災害が生じた折に、被災者の方々が避難時に入れ歯が持ち出せず、食べ物を十分に噛むことができなかった例が多くあったというお話をよく耳にしますが、一般歯科医院で総入義歯を製作する場合、印象採得から完成までに約20日程かかる可能性が見込まれますが、データの受け渡しさえできれば、3Dプリンター約数時間で義歯床がプリントされ、これまでの約半分以の時間で総入れ歯の完成が可能となり、早く義歯が欲しい患者様の要望に応えられます。

 また、技術開発が進み、低コストで大量生産が容易にできるようになれば、希望する治療法を諦めていた患者様にも提供ができるようになってくることでしょうし、3Dプリンターは歯科医療だけでなく、医療全体の発展にも大きく貢献できる技術であると考えられため、今後に大きな期待をしたいと思います!!

     

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