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歯科用3Dプリンターの現状について

 3Dプリンターが世界を席巻し、自動車、航空関連、ヘルスケア、建築、食品などあらゆる業界において、オーダーメイドの製造に多大な影響を与えるようになりました。歯科業界において最も革命的なイノベーションのひとつになりつつある3Dプリンティングについて、今月はお話したいと思います。

その1 光造形法の歴史

 光造形法は3Dプリンターの中で最も歴史のある方式で、原理的な技術は1980年に小玉 秀男氏が発明したと言われています。しかし当時、小玉 秀男氏の申請は特許の成立には至っていなかったため、1984年にCharles (Chuck) W. Hull氏が現在のSAL方式を開発、米国特許出願し、世界で初めて光造形を製品化しました。1990年には株式会社インクスがサービスビューローとして日本で最初に光造形機を導入し、受託製造サービスを開始しました。そして2024年現在、2006年に特許が失効してからは多くのメーカーで開発・生産され、今もなお進化を遂げています。

その2 光造形3Dプリンターとは?どんな種類がある?

 光造形3Dプリンターは、紫外線(UV光)を照射することによって硬化する特殊な樹脂素材(光硬化性レジン)を用いて、1層ずつ造形し、立体的な構造を作ることが可能です。滑らかで美しい表面を求められるような造形物を作るときに、その性能を発揮します。

 

歯科用3Dプリンターには大きく分けて3つの造形方式があります。大型模型を造形しやすいが造形速度は遅い「SLA方式」、スピードとメンテナンス性が良いが導入コストが高めである「DLP方式」、初期費用が安価な分、ランニングコストが高くメンテナンス性が低い「LCD方式」、それぞれにメリット・デメリットがありますので、メリット・デメリットをしっかり把握したうえで、貴社にとって最もメリットが大きい形式を選ばれることをお勧めします。

 

SLA方式
大型の光造形出力をしたい歯科医院や技工所向け

紫外線を一点照射させていく方式です。レーザーポインターのように紫外線を当てて樹脂を硬化させていきます。1点集中で照射させていくためパワーを出しやすく、設備の大型化もしやすいことから、大型の光造形出力をできる利点があります。また、複雑で細かいものでも精微な造形が可能であり、解像度にムラが出ることもありません。一方で、照射範囲が狭く、出力に時間を要するため造形スピードは遅いという特徴もあります。

 

DLP方式
幅広く速く造形したい歯科医院や技工所向け

プロジェクターで本体の下部から面照射をしていく方式です。材料(レジン)に、プロジェクターを用いて広い面積で紫外線照射し硬化させていきます。面で造形していくため造形スピードが速く、高精細で大小幅広いサイズの造形も可能なため優れています。また、以前は造形範囲に解像度のズレが生じやすいとのデメリットがあげられていましたが、技術進歩により、ズレがほとんどないエッジの立った高精細な造形物をプリントできる3Dプリンターも登場しています。しかし、光源が高価なため、導入費用は安くないもののメンテナンスや消耗品が少なくて済むためランニングコストはあまりかかりません。

 

LCD方式
歯列模型の作成など用途が限定的な歯科医院向け

DLP方式同様に面で造形していきますが、使うのはプロジェクターではなく液晶ディスプレイ(LCD パネル)です。紫外線LEDライトをバックライトとして液晶パネルに表示させ樹脂を硬化します。面で照射するため造形スピードが早く、イニシャルコストを安く抑えられますが、高解像度な液晶パネルが紫外線と熱に弱いため定期的な交換が必要となり、他の造形形式よりもランニングコストが掛かるため、導入前に検討しておいたほうがよいでしょう。

 

 日本の歯科業界において現在の主流方式は、一筆書きのレーザーでレジンを照射するSLA方式と、プロジェクターを使用して面でUV照射をする吊り下げ式のDLP方式があげられると思われます。

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その3 歯科用3Dプリンターの導入前に見るべきポイント

 ここでは、歯科用3Dプリンターの導入を検討している方向けに、予めてチェックしておくべきポイントについて解説します。各ポイントを押さえておくことで、導入後のトラブルを抑えられるほか、満足度の高い製品を選べるようになります。

ポイント①

   造形精度や安定性を確認する!

 

歯科用3Dプリンターは、どの造形物方式を採用するかによって、精度は大きく異なります。例えば、治療計画やインプラント治療のチェックなどを行うため、造形物に高い精度が求められます。光造形法の4K LCDパネルを用いた3Dプリンターなら、わずか数十ミクロンの単位で、精密な造形が可能です。また、矯正用の並行模型のデータ復元をするためなら、精度はある程度下げ安定性の高い機器であれば、積層痕の目立ちにくい造形を実現します。

利用目的を明確にし、どのよう程度の精度が必要かを見極めたうえで、3Dプリンターを選ぶことをおすすめします。

ポイント②

  造形積層スピードを確認する!

 

自社で3Dプリンターを導入することで、外注の手間や運送にかかる時間を削減できますが、より早く造形物を得るには、3Dプリンターの造形スピードが重要になります。
歯科用3Dプリンターの多くは、光造形法が採用されています。なかでもDLPやLCDのタイプは、プラットフォームに対して面で光を照射し、材料を硬化させるため、複数の模型でもスピーディーに印刷できます。ただし、メーカーや機種によっては、造形スペースが広いと解像度が低く設計されている場合がありますので、購入してから「思ったより積層に時間がかかった」という事がないように、機器の解像度の高さをよく見た上で、積層される造形スピードも確認するようにしましょう。

積層スピードを求めるなら、筆者はDLP方式を推奨します。面で積層しますので、クラウン一つでも、模型をびっしり並べても積層時間は殆ど変わりません。

ポイント③

  使える材料・使いたい材料に対応しているかを確認する!

 

3Dプリンターは、機器によって使える材料が異なります。一般的な3Dプリンターは、診断用の模型のみになりますが、一部の高機能モデルは、矯正アライナー用、サージカルガイド用、プレス・鋳造用・TEC用・義歯床用・ガム模型用等を造形することができます。歯科用3Dプリンターの導入を検討する際は、あらかじめ何を造形したいたかを判断した上で、対応可否を確認し選ぶようにしましょう。

ポイント④

  コストを確認する!

 

歯科用3Dプリンターを運用すると、機械の導入コストだけでなく、ソフトウェアなどの初期コスト、材料などのランニングコスト、メンテナンスなどの維持コストがかかります。これらを考慮して、自社で3Dプリンターの導入を検討した際に、どれだけのコストメリットが得られるかをよく見ておきましょう。
例えばメーカーや機種によっては、自社樹脂しか対応できないものもあれば、オープンマテリアルと言って、サードパーティ樹脂の使用が可能な3Dプリンターもありますので、この辺りも含めて、しっかりと検討ができていれば、歯科用3Dプリンターの導入後に、外注で模型を製作した場合と比べて大きくコストを削減できます。


 

その4 3Dプリンターの未来像

 3Dプリンターが製造、サプライチェーン、デザインの可能性にもたらした革新の大きさは、議論の余地がありません。ごく短期間のうちに、この技術は複数の産業で大きな飛躍を遂げ、企業はよりスマートで高速、より効率的で環境に優しい製造に引き寄せられるようになりました。


 手頃な価格、生産性の向上、完璧に作られた製品 – これらは、3Dプリンターが今後ももたらし続けるメリットのほんの一部に過ぎません。3Dプリンターは、世界経済の原動力となる可能性があります。


 現在、将来的に最も期待されている方式といえば、DLP方式ではないかと筆者は考えます。

 その特徴は、紫外線をSLAのように点状にではなく面状に当てるというところにあり、そのため、DLPはSLAと比較して造形スピードが速い。一方で造形範囲が広くなればなるほど解像度が粗くなったり、歪みが出たりしやすいとも言われてきたが、これは技術進歩により改善されてきており、現在はDLPこそが解像度、精度において最も高いという分析もなされています。また、速度に関しては従来、インクジェット方式には敵わないとされてきたものの、これもいずれは追い越していくだろうと言われています。

 さてその時、私たちは「言った通りだ」と言えるでしょうか? それについては、そう遠くない次回のお話で・・・。
 

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