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歯科技工術論文のご紹介8

 今回は、総義歯をCAD/CAM技術を利用し製作するラボ内ワークフローについて論文をご紹介いたします。これまでのアナログ技工と比べ患者様、歯科医師、歯科技工士にとっても負担が少なくしかも短時間で総義歯が製作できる方法について、簡易的な翻訳ではありますがご紹介いたします。

CAD-CAM complete digital dentures: An improved clinical and
laboratory workflow

CAD-CAMによるデジタル総義歯:臨床およびラボのワークフローの改善

要 約(Abstract)

 この記事の目的は、CAD・CAM(コンピュータ支援設計・製造)技術を活用した総義歯の製作における新しい臨床ワークフローを紹介することです。この歯科技術は、3つの臨床段階と2つのラボ段階から構成されており、その結果、既製人工歯を備えたCAD-CAMミリングによる2つの総義歯床が製造されます。アナログとデジタルの手法と材料を統合することで、総義歯の計画と製作におけるその利点を最大限に引き出し、臨床結果の改善を目指します。

総義歯画像_edited.jpg

 Srinivasan et alらは、CAD/CAM(コンピュータ支援設計・製造)を使用した総義歯(complete dentures 以下CD )の製作における「ほぼデジタルなワークフロー」について述べていいます。このプロトコルでは、3回の通院と、残存する歯槽堤に直接口腔内スキャナー(IOS)を使用することが必要でした。また、 顎間関係(the maxillomandibular relationship 以下MMR)の確認とミリングされたCDの最終調整には、Wagner Try-In(WTI)プロトコルが使用されました。しかし、このワークフローには限界があり、IOSを直接使用すると、CDの適合性と維持力が不十分になる可能性がありました。部分義歯の咬合採得用パテ材(interocclusal record 以下IR)は、、完全歯列欠損無歯顎の場合と比較して安定性が向上している下顎無歯顎に使用されてきましたが、参照ガイドがないため、歯科技工士がWTI上で歯の位置決めを導くことができません。さらに、CAD/CAM一体型総義歯には、常に解決できるとは限らない欠点があります。

 アナログとデジタルの手法を統合することで、臨床的成功と患者満足度の向上が期待できることが示されています。無歯顎患者に対するIOSの限界にもかかわらず、デジタル技術は大きな利点をもたらしています。WTIは、従来の石膏やワックスの修正を必要とする試適ベースに取って代わることに成功しました。さらに3Dプリントされたベースは最終補綴物と同等の精度で適合し、トレーシングプロセス、音声評価及び顎関節の記録が容易になります。ミリング加工されたCDベースは、重合収縮の影響を受けないため、従来法で製作されたものよりも組織表面への適合性が高く、歯の移動も少なくなります。その結果、保持力が向上し、外傷性潰瘍の減少、モノマー放出の減少とレジン特性により、密度、曲げ強度、色調安定性、耐ステイン性が高まり、カンジダ菌の付着が減少します。

 ミリング加工されたCDベースは、審美性や咬合等の全体的な寸法やその他の考慮事項に応じて、一体化構造で、歯牙の有無に関わらず製造することができます。シェル幾何学技術を採用している一部のCDシステムでは、歯肉乳頭の構造を変更できないため、乳頭頂部の高さを調節することができません。また、乳頭構造が固定されているため、歯と義歯床の設計に合わせてディスクを配置すると、結節部や大臼歯パッドなどの一部の領域が過剰に切削される可能性があります。代替アプローチとして、2つのディスクから義歯床と歯列弓をそれぞれにミリング加工し、それらを接着する方法があります。これにより、セパレートタイプの既製人工歯で起こりうる個々の歯の脱離を防げますが、ミリング加工された歯は既製人工歯の多層構造のような審美性を欠きます。さらに、単一ブロックの管理は困難を伴う場合があります。一体化された歯は、個々の義歯用人工歯と比較すると、軸や位置の観点から歯の配列のカスタマイズが制限されるからです。デジタルCD用の既製人工歯は、義歯床の所定のソケットに配置できるように、組織表面積を小さく設計されています。しかし、ボンディング時の正確な位置決めは困難を伴うことがあり、咬合に影響を及ぼす可能性があります。人工歯を正確に配置するための適切なオフセット値は0.2mmであると報告されていますが、デジタル設計と比較すると、歯の位置に違いが生じる可能性があります。

 したがって、本技術の第一の目標は、臨床的指針を追加しながら、デジタルとアナログのプロセスを統合し、Srinivasanらの技術1を更新することである。第二の目標は、既製人工歯をミリング加工した義歯床へ予測可能な形で接着をするための技術革新を導入することでした。

手 法 (Technique)

初回臨床対応:

1.患者の口腔外および口腔内の写真を撮影(図1)。

2.シリコーン印象材(Hydrogum; Zhermack)を使用して、拡大した不可逆性の印象を採得する(図2A)。

 

3.ポリビニルシリコーン(PVS)パテ(Elite HD+ Putty; Zhermack)を使用して任意の咬合垂直方向の寸法

     を記録し、その陥入面に軽量PVSを塗布する(図2B、C)。

 

4.パテのIRに審美基準線(図2B)をマーキングし、105mmマクロレンズ(f/2.8 EX DG Macro; Sigma)を

     装着したデジタル一眼レフカメラ(D300; Nikon Corp)で自然な頭部位置で患者が最大限に笑ったときの

     写真を撮影します。 

 

5.  IOS(TRIOS 5; 3Shape A/S)を使用して印象とIRをスキャンし、それらを位置合わせします。(図2D)

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Figure 1. 患者の顔及び口腔内情報図

  • A 患者正面図

  • B 患者側面図

  • C 上下顎と残存歯槽堤図

Figure 2.初回臨床対応とプロセス

  • A シリコーン印象材を使用して採取した上顎の印象図

  • B スマイルライン、犬歯、中央線、および下顎と上顎の補綴スペースを区切る任意の     線でIRマークを付けたパテ図

  • C リップサポートとボリュームを確保するためにパテを配置した患者の口腔外観図

  • ​D IRを通して整列させスキャンした印象図(IR、咬合間記録)

初回ラボ対応:

1.IR上の基準線に従って患者の笑顔を計画し、次にCADソフトウェアプログラム(Denture Guide;

     Ruthinium) を使用して 3D 仮想歯列配置を計画します (図 3A、B) (ビデオ 1)。

2.デジタル光造形プリンター(LightBuilder 4K; Dental Maker)を使用して、WTIと歯列配置ガイド

   (tooth positioning guide 以下TPG)を設計し、3Dプリントします。TPGには、0度の角度で印刷し、

  層厚を50μmにした3Dプリント樹脂(Acryprint 3D Guide、Ruthinium)を使用します。歯を適切に

  フィットさせるために、0.07mmのオフセットを設定します(図3C)。

 

3.修正済みの既製人工歯(ルシニウム アクリプラス A3;ルシニウム)をTPG内に配置し、三脚に取り付けま

     す。ベースワックスを使用して、歯をベースに接着します(図3D)。

 

4.低速バー(Carbide Burr 1/8; Dynabrade)を使用して、ベースから三脚を取り外します。

※ダブルクリックで拡大してご覧いただけます

Figure 3.初回臨床対応とプロセス

  • A シリコーン印象材を使用して採取した上顎の印象図

  • B スマイルライン、犬歯、中央線、および下顎と上顎の補綴スペースを区切る任意の線でIRマークを付けたパテ図

  • C リップサポートとボリュームを確保するためにパテを配置した患者の口腔外観図

  • ​D IRを通して整列させスキャンした印象図(IR、咬合間記録)

2回目臨床対応:

1.最終的なMMRでWTIを評価し、調整します(図4A、B)。

2.PVS(Hydrorise Implant Light;Zhermack)を使用して、閉口印象採得を行います。(図4C)。

Figure 4.2回目臨床対応

  • A OVDとWTIによる審美性の評価図

  • B 中立領域(ニュートラルゾーン)の評価図

  • C 硬質PVSでリライニングし、確立された顎間関係で安定させたWTI。OVD:咬合垂直寸法、PVS:ポリビニルシロ​ ​  キサン​、WTI:ワグナー・トライイン

2回目ラボ対応:

1.最終的なCDベースと歯の配置を計画します。CD ソケットのオフセットを 0.2 mm に設定します。

2. 5軸ミリングマシン(DVX 52D Plus; DG Shape)を使用してCDベースをミリングする(図5A)。

3.最終的なTPGを設計し、3Dプリントする(図5B)(ビデオ2)。

4. 接着段階では、ドリルで歯を削り、サンドブラストで砥粒を吹き付け研磨し、モノマーを塗布し、ポリメチルメタ

    クリレート樹脂(Acry Self P、ルチニウム)を使用してCDソケットに接着する(図5C)(ビデオ3)。

Figure 5.2回目ラボ対応

  • A 三脚付きミリング加工をした下顎義歯床

  • B ミリング加工をした義歯床に3Dプリントした最終的な歯列位置決めガイドを装着

  • C 義歯床に人工歯を接着した研磨済みの上顎総義歯

3回目臨床対応:

1. CDを評価し、最終調整を行ってケアとメンテナンスの指示を提供し完成します(図6A、B)。

Figure 6.完成した総義歯のフィット確認

  • 患者のスマイルライン正面図と側面図。

考 察(Discussion)

 この技術では、無歯顎患者に対する他のデジタルワークフローと同様に、IOSと印象材の両方を統合し、また、ミリングベースと既製の歯を組み合わせることで、わずか3回の来院でCDの製作が可能です。アナログワークフローと比較すると、この技術では、WTIで歯とワックスリムを組み込み、MMR記録での二次印象を1ステップで実施することで、臨床時間を短縮できます。デジタルワークフローと比較すると、印象とIR技術の変更により、予測性と臨床結果が大幅に改善されるはずです。

 残存歯槽堤のシリコーン印象は、口腔内スキャンの代わりに、従来の印象法の精度と適用範囲がより高いことから行われました。これらの印象は、IOSでスキャンされ、取得されたすべての情報を保存しました。所望の垂直寸法でパテ印象を行うことで、歯科技工士はより予測可能な方法でバーチャルキャストを咬合させることができ、その結果、他の多くのデジタル技術とは異なり、WTIの調整を減らすことができました。IR上に審美基準線をマーキングすることで、Srinivasanらの方法とは異なり、臨床症状に応じたより予測可能な審美性の計画が可能になります。また、患者の2D写真と仮想歯の配置のためのSTLファイルの重ね合わせも容易になります。しかし、咬合平面の空間的な方向性、審美性、歯牙の露出については、WTIを使用して検証する必要があります。IRを軽量PVSでリライニングすると、軟組織の安定性が向上し、スキャンした印象との適合プロセスが改善され、組織の細かい詳細を捉えることができるようになりました。

 この新しい手法では、三脚でCDベースに接続されたTPGの製作を行います。このアプローチでは、ミリング加工されたものよりも審美性に優れ、個々にソケットに固定できる既製人工歯を使用します。また、この方法では、最終的なCDの歯肉構造、天頂レベル、位置を修正することも可能です。さらに、3Dプリントされたキャストや咬合器を使用せずに、人工歯をCDベースに接着することができます。ただし、この場合、咬合評価や調整のために最終的なCDを咬合器上に再配置することができないという制限が生じる可能性もあります。

 TPGの設計段階では、CDベースにおける歯の挿入軸を確立し、逆にTPGにおける歯の挿入軸を確立することが重要です。本プロトコルでは、歯肉隆起部とTPGの間に0.07mmのクリアランスを適用し、歯と歯槽提の間に0.2mmのクリアランスを設定しました。歯を理想的な位置に配置するために、切削加工された位置決めキーの使用が提案されています。しかし、キーがCDベースに接続されていないため、歯の位置が計画と異なったり、歯の挿入軸によってはクリアランスが理想から逸脱する可能性がある。さらに、変位を避けるためにTPGに含める歯肉隆起部の歯の部分のサイズや、この特定の用途におけるガイドに最適な材料は現時点では不明です。また、歯を接着する前に実施する処理法も、歯とソケットの適合性に影響を与える可能性がある。さらに、単一構造CDや全顎ミリング歯と比較すると、歯牙の脱離リスクは高くなります。

 臨床的な観点から考察すると、パテIRを使用して初期MMRを登録することは難しい場合があります。さらに、モノブロックは患者の下顎を不安定な位置で固定してしまう可能性があり、その後の臨床段階で追加時間と調整が必要になる可能性があります。さらなる改善により、これらの技術的側面が修正される可能性は十分にあると考えます。

概 要(Summary)

 このアナログデジタルアプローチにより、物理的なキャストを使用せずにCDを作製することができ、全体の時間を大幅に短縮することができます。従来の印象はCDベースの保持を改善し、WTIは従来のトライアルベースと比較してフィット感が向上しているため、臨床操作を容易にします。ミリング加工されたCDベースは、樹脂の重合収縮を排除し、歯とベースの安定性を向上させます。そして既成人工歯は、最適な審美性と機能を保証します。

​CAD-CAM complete digital sentures:An improved clinical and laboratory workflow
CAD-CAMによるデジタル総義歯:臨床およびラボのワークフローの改善

出展元 THE JOURNAL OF PROSTHETIC DENTISTR

オンライン公開日:2024年12月28日

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